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山形地方裁判所 昭和47年(レ)15号 判決 1973年3月12日

被控訴人 山形県信用保証協会

理由

第一、《証拠》によれば、請求原因(一)、(四)ないし(六)の事実(但し(一)の事実のうち求償債権の遅延損害金についての約定利率は日歩五銭でなく日歩四銭である)が認められ、これに反する証拠はない。

第二、本件連帯保証契約の成否について

一、《省略》

二、請求原因(三)(右一の行為による控訴人への帰責)につき

(一)  その1(代理権授与の有無)に関し

本件全証拠によるも控訴人が訴外こきんに対し、被控訴人との間で本件連帯保証契約を締結する代理権を授与したことを認めることができない。

(二)  その2(表見代理の成否)に関し

1 その(1)の事実は、当事者間に争いがない。

2 《証拠》を総合すると以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1) 訴外博は、昭和四三年四月頃から自己所有の貨物自動車で訴外本間物産の貨物運搬業務に従事していたところ、同年一二月頃になつて、訴外本間物産から、何らかの理由で同訴外人が訴外本間物産に損害を与えた場合の同訴外人の債務を担保するため、酒田市在住の者を保証人とするよう要求されたこと、又同訴外人は右貨物自動車の未払代金返済の必要上、訴外銀行に対し、同年一一月二六日頃金五〇万円の融資方を申込んだところ、同銀行から保証人がいなければ融資は出来ないと言われたこと、更に、その頃被控訴人に対し右融資を受けるについての保証を委託したところ、被控訴人から保証人がいなければその委託に応じられないと言われたことから自己の妻訴外こきんと相談し、その結果、訴外こきんから、その姉である訴外佐藤ちえ子の夫の控訴人に対し、本間物産関係の保証人になつてくれるよう依頼してその実印を預かり、その実印で控訴人が訴外本間物産への保証人となる契約書と、右金五〇万円の融資を受けるについての保証人となる契約書を各作成することにした。

(2) 右(1)の相談の結果に基づき訴外こきんは、同年一二月一一日頃控訴人方を訪れ、控訴人に対し右(1)の趣旨による訴外本間物産関係の保証人になつてくれるよう要請したところ控訴人がこれを容れ、訴外こきんに対し当時控訴人の、義兄の訴外佐藤春吉方に預けてあつた控訴人所有の実印を右保証契約締結についての書面作成上使用することを許諾した。

(3) 右(2)の際訴外こきんは控訴人に対し、同項の実印を本件連帯保証契約および訴外博が訴外銀行より融資を受けるについての連帯保証契約に使用することおよび、右(1)のような、右各契約につき控訴人を保証人とすることは、いずれも秘していた。

(4) 右(2)の許諾に基づき、訴外こきんは訴外佐藤春吉より控訴人の実印の交付を受けて同月一二日酒田市役所から同実印による控訴人の印鑑証明書二通を取つたうえ、その一通を本間物産関係の保証契約に使用し、同月一三日頃まず被控訴人との間で、訴外博のために保証委託契約を同時に控訴人の代理人として、他の一通の印鑑証明書および控訴人の実印を使用して本件連帯保証契約を、次いで訴外銀行(同銀行酒田駅前支店)との間で、訴外博のために金五〇万円の消費貸借契約を、同時に控訴人の代理人として右実印を使用して右消費貸借の連帯保証契約を、各締結した。

(5) 本件連帯保証契約を締結するに際して被控訴人は、同契約締結につき訴外こきんが控訴人を代理する権限があるかどうかについて、事前の調査が困難なような客観的事情もなかつたのに、電話、手紙、面接等によりその調査をせず、訴外こきんが控訴人の実印およびその印鑑証明書を所持していたことにより、同訴外人が控訴人より有効に代理権を授与されていると信じて本件連帯保証契約を締結した。

(6) 訴外こきんが被控訴人との間で控訴人の代理人として何らかの契約を締結したのは本件連帯保証契約が最初である。

(7) 訴外こきんを代理人として、訴外博との間の金五〇万円の消費貸借につき控訴人と連帯保証契約を締結した訴外銀行も、被控訴人の場合と同じく訴外こきんの代理権の存否につき事前の調査が困難なような事情がないのに、その調査をせず、更に以前訴外こきんが訴外銀行との間で控訴人の代理人として契約を締結したこともない。

(8) 被控訴人は、中小企業者等が銀行その他の金融機関から資金の貸付等を受けることにより金融機関に対して負担する債務につき、中小企業者等より保証料を取り、或いは求償債権の遅延損害金の利率を法定利率以上に約定すること等により、業としてその保証をする法律に基づき設立された金融機関(少なくともそれに準ずる機関)であり(訴外銀行が金融機関であることは明白である)、他方控訴人は農業を業とする者であつて、金五〇万円といえば相当高額な金額である。

3 右1、2の事実に基づく判断

(1) 右2(1)ないし(4)の事実によると、訴外こきんと被控訴人間の右一の本件連帯保証契約は、訴外こきんが控訴人から授与された右1の代理権の範囲を踰越してなされたものであると認めるのが相当である。

(2) ところで金融機関(それに準ずる機関も含む)が保証人の代理人との間で、代理人自身あるいは配偶者等それと一身同体の者を主債務者とする連帯保証契約を締結する場合において、その保証金額が保証人の経済事情からみて相当高額である場合には、主債務者自身(配偶者も含む)が保証契約締結を代理する場合は権限踰越をする一般的危険性があること、当該代理行為の内容は保証という反対給付のない債務負担の行為であることおよび金融機関という専門的機関には通常人に比しより高度の注意義務が要求されて然るべきであること等に鑑み、代理人が本人の実印を所持している場合においても、以前その代理人により契約を締結したことがある等その代理権の存在を信ずるに足りる特段の事情あるいはその代理権の有無についての調査が困難であるという事情がない限り、本人に対し、保証の意思の有無等について照会し、これを確かめる義務があり、これを怠つて代理人が実印を所持していたことのみにより代理権があるものと信じたにすぎないときは、いまだ民法一一〇条にいう代理権ありと信ずべき正当の事由がある場合にあたるとはいえないと解する(最判昭四一・一〇・一一裁判集民事八四号五六九頁、同昭四五・一二・一五民集二四巻一三号二〇八一頁参照)を相当とする。

(3) 右2(5)(6)(8)の事実関係の下においては、本件連帯保証契約につき被控訴人に右正当事由があるとは言えないこと明らかであり、結局、本件連帯保証契約は本人たる控訴人にその効力を生じない(因みに右2(7)の事実によると、右(2)と同様の理由で控訴人と訴外銀行との間の連帯保証契約も本人たる控訴人にその効力が及ばないので、代位弁済者たる被控訴人が民法五〇〇条により債権者たる訴外銀行に代位しても、連帯保証人たる控訴人に請求することはできない)と言うべきである。

第三、結語

右第一、第二によると、被控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却すべきである。

よつて、右と結論を異にする原判決は取消

(裁判長裁判官 伊藤俊光 裁判官 広岡保 中野哲弘)

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